02.2015 森咲子
2015年・冬の真っ只中
なにせ雪が多い今年の冬、、
この1ヶ月の間に何度、大雪警報や吹雪による町の緊急事態が発令されたことか!
そうなると、学校や店はもちろん、電車やバスも(けっこう気前よく)ことごとく閉鎖され、町全体がシャットダウン状態になる。
そういう大雪の夜は、車の運転は危険だし、雪かきトラックの邪魔にならないようにと道路も封鎖される。先週アメリカに15年住んで初めて「今夜12時過ぎてから車に乗ってたら逮捕する」というびっくりな警察のお知らせを新聞でみた。あとは、自宅の前の歩道の雪かきをしないと罰金、というのも今年初め て聞いた気がする。もう、市もいい加減雪対策に飽きてきたか、自暴自棄になっているんだろうか。
先週は毎日雪マーク。積もった雪は1メー トルを軽く越えた。雪が降らない時は気温が低すぎるからで、そういう時は大抵零下10度を下回っている。仕事は何度も雪でキャンセルになるし、家にこもるしかなく外はいつ見ても真っ白、というのが何週間も続くと、だんだん時間の感覚がおかしくなってくる。今日は何曜日で、今、朝だっけ夕方だっけ、明日は何がある日だったか、そういうのが頭の中で際限なくぽわ~んと回る。
そんな頭にもやのかかった状態の時に、ふたつのイベントがあった。
ひとつめは、パートナーと二人でやった秘密のラーメン屋。
友達の家(昔何かの工場だった小さい建物を改造して住んでいる)を使わせてもらって、一晩だけのラーメン屋を開いた。夜しかやってないので「こうもりラーメン」という名前だ。
本格的なラーメンではなくて、アメリカでも簡単に安く手に入るサッポロ一番みそラーメンに、ねぎ、コーン、わかめ、もやしをのせたのがレギュラー($3)。 その他にもキムチ、ゆで卵などのトッピングができるようにした。今回初めて気付いたけど、サッポロ一番みそラーメンのスープって、ベジタリアンなんだった。これはベジタリアンが多いコミュニティの催しでは、とても有難かった。
ビールと、あと稲荷ずしも作ってメニューにのせた。丼ぶりやお箸、レンゲなどは、アジアンマーケットにて超安値で調達した。
提灯をペンキで塗って作り、(写真がなくてすいません)、DJの友人がこうもりラーメンのために作ってくれた、昭和のヒット曲や色んな東南アジア国のフォー クミュージックや、アングラな香りのダンスミュージックやらでいっぱいのミックステープ(カセット)を一晩中ずっとかけっぱなしにした。
開店と同時に、友人達中心に配った手作りチラシを見た人々が、極寒の中を次から次へとやってきて、私達はあっという間にテンテコ舞い。無我夢中で麺をゆで盛り続け、なんとか店は傾かずにすんだ。
一息ついて台所(厨房、というべきか)から出てみた時、フーフーいわせながら一心にラーメンをすする人々で一杯の光景を見た。場は湯気いっぱい、和やかで、皆満足げに帰って行った。
道具は揃ってるし、夏が来るまで月に一度くらいの感じで開店しようかと言っている。
ふたつめは、5日前にあった、24時間サイエンス・フィクションムービーマラソンだ。
これは今年で40回目を迎えた、SF映画ファンにとって格別な、年に1度の祭りin Bostonである。毎年President’s Dayのあたりに行われるボストン・SFフィルムフェスティバルの最終日に、築100年の美しいシアターで、フェスティバルのスタッフが情熱をかけて作るプログラムに沿って、クラシックから新作、あまり知られていないような作品まで様々なSF映画を、正午から次の日の正午までぶっ続けで観続ける。それに今年初めて、参加した。
私のまわりに、もう何年もこのマラソンに毎年参加し続ける人達がいる。彼らは毎年秋頃になるとそわそわし出し、年が明けるころには、ほぼこのマラソンの話しかしなくなる。マラソン前日は、シアターでの彼らの特等席(最前列)を確保するため、徹夜組が掛け持ちで毎年シアターの前に並ぶ。24時間映画を観続けようという直前のこの行いは、苦行すれすれの最高な儀式のようだ。
今年は、マラソン前日から当日にかけて、よりによってこの冬一番の大雪・吹雪警報が出ていて、数日前からすでにマラソン前日・当日は市内の電車とバス全ての閉鎖が決まっていた。だからといってマラソンをキャンセルするような主催者でなければ、行かないという選択肢のある人達でもない。
徹夜組は計画どおり吹雪の夜を外で耐え、私達は朝5時に起きて車が走れるぐらい雪がおさまるまで待って出発。会場でみんなと合流し興奮が高まる。マラソンが始まる頃には、シアター内はほぼ満席になっていた。
パジャマ姿の子供や、年配のファン、熱心なSFファンといった風貌の人々、興味津々の大学生達、パンク野郎達などなどがそれぞれ寝袋や枕、毛布を抱えて集まっている。
始まる前の主催者の挨拶では毎年決まってやるかけ声があり、シアター中でカウントダウンそして「発射!」シアター全体がひとつのスペースシャトルとなり、マラソンが始まった。
今回のハイライトのひとつは、70mmで上映された「2001年宇宙の旅」、そしてこの映画の特殊撮影を手がけたひとりDouglas Trumbullが会場に来ていて、この映画にまつわる話やその他の映画体験について惜しみなく聞かせてくれたこと、それから彼が私達と同じようにシア ター内でスナック菓子を手にこの映画を観たことだろう。映画の後のQ&AでDouglasは、この映画は何百回も観たのに、また今日新たな発見があったと言った。
吹雪で暖房設備が動かなくなり、途中で暖房が入らなくなったという申し訳なさそうなアナウンスもあったけど、こんな、町の緊急事態の日に予定通り場所を開けてくれただけで、会場一同ありがとうと言っている。
確かにものすごく寒かったけど、毛布にくるまり一晩中ロビーで沸いていたコーヒーに助けられ、早朝にはアニメーション「The Iron Giant」に涙し、何度かうとうとしながらも24時間を終えた。映写技師やその他スタッフによる、熱意と愛のこもった締めくくり。300人を超える人々の奇行ともいえるほどの静かな情熱と行動により、大雪で町中の機能が失われる中、このマラソンは今年も無事行われた。
家に帰って15時間眠った後も、興奮は冷めない。一度宇宙へ行くと、それまで地球しか知らなかった時代と同じではいられないんだろう。
もやもやをぶち破るきっかけや、インスピレーションはいつどこからやってくるかわからないから、できるだけ身軽でいて、たまには、え?ということや慣れないことに、頭で考えるより先につっこんでいくべし、と決めたこの冬の収穫だった。